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第7回目医療事故
医療事故ではないか?と思ったら
5. 証拠となる診療録などの保全
1 診療録などを確保する方法
2 カルテ開示
3 証拠保全
4 カルテ開示か証拠保全か
1 診療録などを確保する方法
医療事故が疑われた場合、一番大事なのは、証拠を確保することです。ですから、何らかの方法で、診療録を入手することになります。
通常、診療録を入手する方法は、病院に直接カルテ開示(*)を請求する方法と、裁判所に証拠保全を申し立てる方法のいずれかです。
(*「カルテ」とは、医師が作成する診療録の部分のみを指すため、厳密には「カルテ開示」ではすべての診療録の開示請求とは言えないのですが、一般的に診療録の開示を求めることを「カルテ開示」と呼んでいることが多いので、ここでも同じ使い方をさせていただきます。)
2 カルテ開示
厚生労働省から出されている「診療情報の提供等に関する指針」を踏まえて、現在は、患者本人が病院に対して直接開示請求をすれば、自分の診療録を開示してもらえることがほとんどだと思います。
特に、ある程度の規模の総合病院であれば、それぞれの病院で専用の申込書を用意してあって、事務の窓口で申し出れば、比較的簡単に開示の手続きをすることができると思います。
もっとも、「診療情報の提供等に関する指針」は法律ではありませんし、罰則があるようなルールではないので、どの病院でも一律に同じようにすべての診療録がスムーズに開示されることが保証されているわけではありません。
また、開示の手続きの際、「すべての記録が欲しい」ということを、申し出る側が気を付けて申し込みを行わなければ、カルテ(医師が作成した部分)だけしか開示されず、看護師の記録である看護記録や、検査結果のデータ、画像のデータなどが開示されなかったということもありえます。
このように、漫然とカルテ開示の申し込みをしただけでは、すべての記録が正確に開示されるとは限らないので、注意が必要です。
3 証拠保全
証拠保全とは、裁判所の決定を受けて、裁判官があらかじめ証拠を確保する手続きのことを言います。
医療事件で行う証拠保全は、診療録を証拠として確保することが目的ですが、 診療録を病院でまだ使う可能性もありますし、電子カルテは現物を持ち出すことができませんので、証拠を確保するといっても、現物を差し押さえて回収というような手続きではありません。
裁判官に現地に赴いてもらって、裁判官がその日に現認した状態を記録に残す、法律用語でいえば「検証」という手続きになります。
検証した結果は、「調書」という裁判所の記録の形で残されることになるのですが、診療録を調書に残す方法は各地で違いがあり、専用のカメラマンが同行してカメラマンがカルテ等の写真を撮る方法や、病院のコピー機を利用させてもらってカルテを謄写する方法、電子カルテを病院でプリントアウトしてもらう方法等があります。
また、現在は、ほとんどの病院で画像をデータ保存しているので、画像の入手は、読み取りソフトとともにCD-RやDVDへデータをコピーする方法となることがほとんどです。
こうしてコピー等により確保したデータ等を裁判所が持ち帰り、後日、裁判所が、これらのコピー等を添付した調書を作成します。
この調書を謄写して、ようやく正式に記録を確保することになります。
なお、証拠保全は、裁判所への申立、裁判所による証拠保全の実施、調書の作成という流れを経てようやく診療録が確保されることになります。ですので、ご依頼から診療録の確保までには、数か月単位の期間を要することになります。
4 カルテ開示か証拠保全か
証拠保全の申立は、通常の裁判と同じく、弁護士に依頼しなくてもやろうと思えばできる手続きなのですが、申立ての際には、医療事故が疑われる可能性が高いことや、証拠保全という方法で証拠を確保する必要性があることなどを、証拠によって示さなければならないため、一般の方だけではなかなか難しい手続きだと思われます。
よって、通常は、証拠保全の申立は弁護士に依頼することになると思いますが、その場合、どうしても弁護士費用がかかることになります。そのため、カルテ開示と比べると、弁護士費用の分だけ余計に費用が掛かることになります。
最近は、電子カルテ化がかなり進んでいます。電子カルテは、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」により、基本的には改ざんができない仕組みとなっています。そのため、以前に比べると、改ざんの恐れは低くなったと言われています。
しかし、いくら電子カルテ化が進んだといっても、紙の記録が一切なくなったわけではありませんし、わざとではなく手違いで記録が消去されたり、廃棄されてしまったりする可能性も否定はできません。
ですので、弁護士の立場からすると、金銭面の負担についてあまり考えなくてよいということであれば、病院側で記録の改ざん等が行われる可能性が全くないとはいえないので、費用をかけてでも証拠保全の手続をとるべきだと言いたいところです。
もっとも、証拠保全は裁判所を利用する手続ですから、時間もかかりますし、前述のとおり一定の費用がかかることも考えなければなりません。
このように、費用やその他のメリットデメリットを考慮した上で、事案によって記録の確保の仕方を決めていくことになります。
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- 掲載日:
- 2022年10月27日
- 監修者:
- 川島 英雄 弁護士