中年ライダーの自転車物語その2(オホーツクサイクリング)
僕が弁護士登録をした事務所の所長弁護士(ボス)は、自転車大好き人間だった。ボスは、自動車の運転ができない、ということもあったのだが、自転車を何台も持っていた。もちろん本格的で、レースにも出る様なへんなおじさん弁護士だった(実は、60歳を越えた今でもそのままなのだが、、、。)。
僕は、このボスに誘われて、一度「ツールド北海道」という本格的なロードレースに出たことがある。当時、自転車を持っていなかったので、ボスの自転車を借りて出場した。本当のプロではなく、一般参加でのレースなのだが、とてつもなく速い。時速30キロでは簡単においていかれてしまう。まだ30歳前と一応若かったから、何とか第1関門は突破したが、続く第2関門は、規定の時間内に到着することができずにレース終了。うーん、世の中にはすごい自転車の世界があるのだなあ、と痛感した。
もしかしたらそのまま自転車の世界にやみつきになったかもしれないが、残念ながら、その後は仕事がメチャクチャ忙しく、自転車に熱中する時間がないまま時間が経過した。それでも結婚したときに、この元ボスから、夫婦で自転車をプレゼントされた。それが今も乗っているクロスバイクだ。昨年、購入した老舗の自転車屋で、始めてタイヤ交換をしたのだが、店の人から、「いやあ、年期入っていますねえ。始めてみました。」なんて言われてしまった。
このバイクもずっと乗らずじまいだったのだが、なぜかまた自転車に乗りたくなってしまった。そして、その象徴として、オホーツクサイクリングに出る決意をした。今僕が形ばかりのリーダーになっている「自転車に乗る弁護士チーム」(APB)では、このオホーツクサイクリングについては、すこぶる評判が悪い。「自分のペースで走れないなんて最低!」っていうメンバーもいる位であまり価値を認めてもらっていない。とはいうものの、元々僕は、ロードバイクではなくサイクリング派。トータル212kmを2日掛りで走るというのは、久しぶりに自転車に乗るには、うってつけの理由だった。
そうして最初にオホーツクを走ったのは、2006年。そのころは自転車仲間もおらず、1人でいろいろと手配をした。自慢じゃないけれども、パンクも1人で修理できない。練習も、せいぜい30km位を何度か走った程度。当時小学生だった子供たちに、「お父さん生きてかえってきてね。」と言われる始末。
大会は、前日に雄武町入りしなければならない。これが結構大変。女満別空港に降り立ってから、送迎バスで2時間あまり。右手にオホーツク海を観ながらひたすら北上。そして夜は、雄武町の学校の体育館で寝袋にくるまって眠る。妙に興奮してなかなか寝付かれない。
翌朝は7時過ぎにスタート。番号順にグループごとにスタートする。予想以上に年配のライダーが多い。多くは良いバイクに乗っている。その一方ママチャリで参加しているオバサンも見かける。す、すごい。そうそう着ぐるみを着たライダーなんかもいて、妙に笑っちゃう。
サイクリングなので、基本的には追い越し禁止。それでも長距離初心者の僕には結構なスピードを感じた。事前配布の地図では、雄武町から興部までに最大の上り坂がある。しかしそこは、走り始めなので余裕を持って乗り切った。軽いロードレーサーにはなかなか追いつけないが、できるだけグループの先頭に食らいつく。この年はものすごく天候に恵まれた。青い空に、蒼いオホーツク。初日もっとも厳しかったのは、アイランド湧別へ向かう上り坂。走ったことがない道はどこまで上りが続くのかわからない。行けども行けどもまだ上り。すでに100km近く走っているので身体全体が重い。それでも何とか乗り切った。この日の夜は、常呂町のカーリング会場で宿泊。周囲はみんな爆睡状態。さあ残り70kmあまりだ。
途中網走支庁前での休憩所に、かって事務所に勤務していた関さん家族が応援に着てくれた。そして2日目の最大の難関は、小清水原生花園付近の緩い上り坂。この年、完全な向かい風で前々前に進んだ気がしない。正直めげてバイクを下りそうになった。指導員が前に出てくれて、「26で引きますから」と言ってくれる。しかし、その時速26キロがなかなか出ない。悔しい。
息も絶え絶えに休憩所に入って、男爵イモをほおばる。旨い。そして休む間もなく斜里町のゴールに向かった。斜里町に入ると町民がガンガンをたたいて歓迎してくれた。
こうして1年目を無事完走。続けて2007年、2008年とオホーツクを走った。次第にコースを頭に描けるようになると、ペースがつかめてくる。その一方で、正直感動が薄れてくる。2日間も寝袋はしんどいなあとか、もっと思いっきり走りたいなあ、とか、夏に3日間つぶれるのは厳しいなあとか。
様々な事情が絡んで、この3年以来、オホーツクには行っていない。でも、ある意味で僕の長距離ライドの原点。もう少し意見を言いつつ、機会があれば、またあの道を走ってみたい。
(続く)